『モニュメント』
それはロードレースの世界で、ワンデイレースの頂点に立つ5つのレースです。
モニュメントで勝利することは選手にとって最高の名誉であり、勝利すればロードレースの長い歴史に確実に名を残す事になります。
今回の記事では、選手なら誰もが欲しいタイトル『モニュメント』の各レースの特徴を説明していきます。
モニュメントと呼ばれるレース
1.ミラノ〜サンレモ
1907年から行われているイタリアのミラノ・サンレモ間を走るレースです。
特徴は走行距離で、全ワンデイレース中最長距離でレースを行います。
2019年のミラノ〜サンレモはなんと、走行距離291kmという300kmに迫るコースでした。
モニュメントでシーズン中、最も早く開催されます。
そのためイタリア語で春を意味する『ラ・プリマヴェーラ』とも呼ばれています。
厳しい山岳がないコースレイアウトの為、スプリンターに有利なレースです。
最大の勝負所は残り30kmを切って現れる”チプレッサ“と”ポッジオ“という2つの丘が連続する区間です。
2つの丘はどちらも距離も勾配も難易度は高くありません。
しかし選手たちは、それまで約270km走って来てこの丘に突入します。
更にポッジオを下りきってすぐにゴールがあるので、逃げ切りを狙いアタックをする選手とそれを良しとしないスプリンターを要するチームによる激しい戦いが繰り広げられます。
レースの勝者はポッジオで逃げ切りを決めた選手達の独走か少人数スプリント、またはポッジオの高速バトルに食らいついたスプリンター達による集団スプリントで決まります。
レース終盤にパンチャーとスプリンターの意地と意地がぶつかり合う、熱いレースです。
勝負所がはっきりとしているので、ロードレース観戦初心者にもオススメです。
2.ロンド・ファン・フラーンデレン
1913年から行われているベルギーのフランデレン地域を走るレースで、フランス語で『ツール・デ・フランドル』とも呼ばれます。
特徴は、500m〜2km程の距離の急坂登坂区間がいくつもコースに組み込まれている事です。
この急坂は”ミュール“と呼ばれ、石畳の区間もあり非常に滑りやすい上に道幅が狭いため落車が起きると渋滞が発生します。
そのためミュール突入前に集団前方を確保するために、各チームによる激しい位置取り争いが起きます。
結果アタックやペースアップにより集団がばらけ人数が絞られていきます。
ミュールでのアクシデントや集団分裂、更には雨や強風等の不確定要素が重なる展開の読めない過酷なサバイバルレースです。
集団がまとまってゴールすることがほぼ無い過酷なレースなので、集団スプリントによるゴール争いにはなりません。
無数に起こるアクシデントに巻き込まれない運と、サバイバルレースに生き残る実力を兼ね備えた精鋭達によるアタック合戦の末の独走、またはスプリントにより勝負が決まります。
別名『クラシックの王様』とも呼ばれ、格式高いモニュメントの中でも一際存在感の大きいレースです。
3.リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ
1892年から行われているベルギーのワロン地域を走るレースです。
世界最古のクラシックレースで『ドワイエンヌ(最古参)』という別名でも呼ばれます。
特徴はアップダウンが繰り返され、更に登り1つ1つの距離が長く1日の獲得標高が4000mを超える事が多い事です。
そのためスプリンターに活躍の余地は殆どありません。
パンチャー・クライマー・オールラウンダーといった、登坂で勝負出来る脚質の選手達による戦いになるレースです。
レース終盤になるにつれ登りを使ったアタックが頻発し、集団は絞られていきます。
その戦いで生き残った選手達による少人数スプリントか、アタックで他の選手を全てふるい落としての独走勝利がレースの決着パターンです。
4.パリ〜ルーベ
1896年から行われているフランスのパリ・ルーベ間を走るレースで、別名『クラシックの女王』とも呼ばれます。
特徴は、握りこぶし大の石が敷き詰められた未舗装路の”パヴェ(石畳)“区間が無数にコースに組み込まれている事です。
フラットなコースレイアウトですが、合計するとコースの約5分の1の距離(約50km)を占めるパヴェ区間によりレースは他に類をみない程の過酷なものになっています。
パヴェ走行時には強烈な振動が選手を襲い、石の鋭い角や段差でパンクや落車が頻発します。
晴れていれば巻き上がる激しい砂嵐で視界が悪くなり呼吸もまともに出来ず、雨天時には選手が誰だか分からないほど弾け飛ぶ泥で機材トラブルが起き、滑りやすくなった石で更に落車の可能性が上がります。
機材トラブルや落車が頻発する過酷なレースなので『北の地獄』という異名があります。
パヴェ区間がレースの重要なポイントです。
そのため選手はパリ〜ルーベに合わせてバーテープを2重に巻いたり、通常のレースではあまり使われないような衝撃吸収性に優れたフレームを使用したりします。
パリ〜ルーベを制す為に開発される機材があるほど、異質で特別なレースです。
レースの最後は”ルーベ・ヴェロドローム“のトラックコースを1周半してゴールするのが恒例となっています。
このレースで勝利するには落車等のトラブルに巻き込まれないように、常に集団先頭に位置することが必要です。
空気抵抗を受ける覚悟を持ち先頭で走り続ける胆力と繰り返されるアタックにも対処する実力、そして頻発するアクシデントを回避するテクニックと運、全てを兼ね備えた選手だけが先頭でヴェロドロームに突入出来ます。
そして独走または精鋭達による少人数スプリントでレースは決着します。
不確定要素が多すぎて通常のレースのようにチーム戦略がまともに機能しないため、真の実力を持った選手が勝利するレースです。
5.イル・ロンバルディア
1906年から行われているイタリア・ロンバルディア州を走るレースです。
モニュメントで唯一秋に開催される為、別名『落ち葉のクラシック』と呼ばれます。
特徴は7kmにも及ぶ登坂が組み込まれた獲得標高が4000mを超えるコースレイアウトで、クライマーが活躍する珍しいクラシックレースである事です。
登坂力と共にダウンヒル能力も勝負の鍵になっています。
実際ダウンヒルを得意とする”ヴェンチェンツォ・ニバリ“は、下りのアタックでライバルを引き離しての独走で2015年と2017年の2度レースを制しています。
勝負は登坂区間で生き残った精鋭達による少人数スプリントか、アタックでライバルを引き離しての独走により決着します。
クラシックレースではアシストに回ることの多いクライマーやオールラウンダーが活躍し、開催時期も秋という珍しいレースです。
シーズン終盤に開催されるため、ロードレースファンが一抹の寂しさを感じるレースです。
まとめ
1.ミラノ〜サンレモ
・全ワンデイレースの中で最長距離を走る
・ポッジオという丘が最大の勝負所
2.ロンド・ファン・フラーンデレン
・短い急坂区間がコースにいくつも組み込まれている
・不確定要素の多い過酷なレース
3.リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ
・世界最古のクラシックレース
・アップダウンが繰り返される
4.パリ〜ルーベ
・パヴェ区間が特徴であり勝負所
・実力、運を兼ね備えた真の強者だけが勝利出来る
5.イル・ロンバルディア
・モニュメントで唯一秋に開催される
・登坂力とダウンヒル能力が必要
モニュメントは世界最高峰のレースなので、世界のトップ選手が出場します。
トップ選手が死力を尽くして戦うワンデイレースのモニュメントは、ロードレースの魅力を凝縮したような最高のレースです。
そのためロードレース観戦を始めたばかりの人が、ロードレースの魅力を知るのにオススメです。
是非モニュメントを観て下さい。
今回の記事があなたがロードレース観戦を楽しむ事に少しでも役立てば幸いです。
最後まで読んで下さりありがとうございます。